世界と和して同ぜず生きてゆくために古事記を読む



古事記は七世紀後半頃までに日本で受け継がれていた神話や伝説、そして当時から見て「古い」時代の歴史を記した物です。古事記の成立は西暦712年なので、古事記が成立してから千三百年以上の時間が経ちました。けれども古事記は日本国のある限り人々に受け継がれてゆくでしょう。 ここで日本人を、古事記が成立した頃の日本人、現代の日本人、そして未来の世代の日本人の三つに分けて、古事記が各々へ果たす役割を考えてみます。

古事記が成立した頃の日本人にとって古事記は、国内の秩序をただす役割がありました。 当時の東アジアでは、ユーラシア大陸に自らを「中『華』」と称する皇帝が周辺の諸国を勢力圏に収めて覇権を握っていました。 そこから東に位置する「東『夷』(とうい)」の内の一国である「倭国(わこく)」の大和朝廷は、その中華帝国と対等な関係を築くためにまず日本人、特に皇室の人間や有力な豪族に対して君臣の秩序をただす必要がありました。 古事記には、なぜ天皇という存在がいて、どのように皇室や豪族の血筋がつながれてきたのかが書かれています。その中には、民を慈しむ心を持ち理想の君主の姿を示した仁徳天皇(にんとくてんのう)や、自らの不徳で恨みを買い命を落とした安康天皇(あんこうてんのう)など、のちの君主への規範を諭した記述すらあります。

現代の日本人にとっては、神社に祀られている神々の由来、和歌などの有形無形の日本文化の始まり、そして日本各地の地名の起源の手がかりを記す物であり、さらに大昔から今に至る日本人が共有する物語としての役割があります。

未来の世代の日本人にとっても、古事記は日本独自のものの見方や感じ方、考え方を映すはたらきをします。 そのはたらきは、世界の人口のなかで一億人程度しかいない日本人が世界の人々と「和して同ぜず」生きていくことを可能にするでしょう。 古事記は、日本人に自分自身を理解させ、さらに他の国との違いを感じさせる役割をするのです。

以上のように日本人を三つに分けてそれぞれへの古事記の役割を述べましたが、とりわけ重要なのは現代と未来の日本人への役割でしょう。私は古事記が一部の愛好家だけでなく、日本人全員の共有する物語となることを願います。

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