帰納的思考(Inductive thinking) 例題1



帰納的思考(Inductive thinking) ...
個々の事象や現象のような「具体的な例」から、広くどんな事象や現象にも当てはまる「一般論」を予想します。『類推(Analogy)』で書いた事と重複しますが、「予想したものはあくまで予想に過ぎない」ということに注意しましょう。

(例題)
\(1\) 以上の整数を \(2\) 乗した数は、 \(3\) で割りきれるかもしくは \(3\) で割ると余りが \(1\) になるかのいずれかであることを証明してください。

(考え方)
そもそもよほど奇特な方でない限り、「\(1\) 以上の整数を \(2\) 乗した数は、 ...である」という主張をいきなり聞かされてピンとくる人はいません。

なので、本当にそうなのか具体例を出して検証してみます。

【 \(1\)で考えてみる】
\begin{equation*} 1^{2}=1 \\ 1 \div 3 = 0 \text{余り} 1 \end{equation*} なるほど、 \(1\) 余りました。でもこれだけでは心もとないので、もっと具体例を出してみます。

【 \(2\)で考えてみる】
\begin{equation*} 2^{2}=4 \\ 4 \div 3 = 1 \text{余り} 1 \end{equation*} これも \(1\) 余りました。

【 \(3\)で考えてみる】
\begin{equation*} 3^{2}=9 \\ 9 \div 3 = 3 \end{equation*} これは\(3\)で割りきれました。

【 \(4\)で考えてみる】
\begin{equation*} 4^{2}=16 \\ 16 \div 3 = 5 \text{余り} 1 \end{equation*} これは \(1\) 余りました。


どうやら「\(1\) 以上の整数を \(2\) 乗した数は、 ...である」という主張は正しいようにみえます。しかしこれは \(1,2,3,4\)という具体例に対して正しかっただけであって、 \(512\) とか \(1067\) などはやってみないとわかりません。ただし、具体例の結果から、以下の二つのことが考察できます。

一、元の整数が\(3\)の倍数であれば、それを\(2\)乗した数も\(3\)で割りきれる
二、元の整数が\(3\)の倍数でなければ、それを\(2\)乗した数は\(3\)で割りきれず\(1\)余る

一と二の考察から、「整数を \(3\) の倍数かそうでないかに分類(場合分け)して解いてみる」という一つの方針を打ち出し、回答を試みます。 \(m\) を正の整数とすると、 \(1\) 以上の整数 \(n\) は \(3m\) 、 \(3m-1\) 、 \(3m-2\) のどれかの形で表すことが出来ることを利用して
  1.  \(n\) が \(n=3m\)という形で表されるとき
    \begin{align*} n^{2} &=9m^{2} \\ &=3 \cdot 3m^{2} \end{align*} \(3m^{2}\) は整数だから \(n^{2}\) は \(3\) で割りきれる。

  2.  \(n\) が \(n=3m-1\)という形で表されるとき \begin{align*} n^{2} &=(3m-1) \times (3m-1) \\ &=3m(3m-1) -(3m-1) \\ &=9m^{2} -6m+1 \\ &=3 \cdot (3m^{2} -2m) +1 \end{align*} \(3m^{2} -2m\) は整数だから \(n^{2}\) は \(3\) で割ると \(1\) 余る。

  3.  \(n\) が \(n=3m-2\)という形で表されるとき \begin{align*} n^{2} &=(3m-2) \times (3m-2) \\ &=3m(3m-2) -2(3m-1) \\ &=9m^{2} -12m+1 \\ &=3 \cdot (3m^{2} -4m) +1 \end{align*} \(3m^{2} -4m\) は整数だから \(n^{2}\) は \(3\) で割ると \(1\) 余る。

1、2、3から「\(1\) 以上の整数を \(2\) 乗した数は、 \(3\) で割りきれるかもしくは \(3\) で割ると余りが \(1\) になるかのいずれかであること」が証明されました。

今回の例題は、はじめから抽象的な「一般論」が与えられ、その正しさを証明する問題でした。\(1,2,3,4,...\)という具体例にあてはめ、そこから考察をし(『帰納的思考』)、その考察から回答の方針を打ち立て、それが解決に結びつきました。今回は「整数を \(3\) の倍数かそうでないかに分類(場合分け)して解いてみる」という一つの方針がたまたま上手くいきましたが、もしそれでうまくいかなかったら他の方針を考えてみます。問題に対して辛抱強く立ち向かうことを身につけていきましょう。

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